2023.12.15 林会長のお便り

祐介先生、牟田さんこんばんは。

 今夜は小学校5年生の話をさせてもらいます。今年の1121日長野県佐久市中佐(なかさ)()小学校で講演させてもらいました。この学校は以前からずっと続けて歯ブラシ、タオル、鉛筆などの物資を集めてくれています。その物資を受け取りに行くたびにこの物資がどういう人に使われているのか話させて下さいと言っているうちに実現したものです。

 タイトルは「私の夢は15歳まで生きること」でした。最初に世界ではじめて一卵性双生児のきんさん、ぎんさんが二人そろって100歳になった時の話をしました。妹のぎんさんの口の中には自分の歯が5本ありました。姉のきんさんには歯が一本もありません。歯がある人はなんでも食べることができますが、なければやわらかいものしか食べられません。しかも食べた後に消化剤が必要なのです。きんさんやぎんさんもその通りでした。しかも注意力も歯のある人の方がするどく、歯がなくなると注意力だけでなく思考力も記憶力も落ちてしまいます。歯のない高齢者の顔と入れ歯を入れたときの顔も見てもらいました。どの高齢者も入れ歯を入れた時の方がしっかりした元気な顔になるのです。

歯の大切さを見てもらったところでハローアルソン・フィリピン医療ボランティアの話をしました。フィリピンのスラムに住む人は1日の収入も1,000円足らずです。67人の家族では食事さえ満足にとれません。もちろん病気になっても診てもらえないのです。無料でやってもらえる歯科治療はそれこそ神様のプレゼントのようなもので、この日のために受けとった順番札を「神様のチケット」と呼んでくれます。スラムの人達は寝る家もなく、人の家の軒先や木の下にダンボールを敷いて生活しています。着るものも12枚で雨に濡れても、そのまま乾くまで着たままです。雨が降ったら外に飛び出していって頭を洗ってシャワーの代わりにします。ここで生まれ育った子供は15歳以上になるまで生きていられる人は3人に1人ぐらいです。食べるものもないし、病気になってもお薬をもらえないからです。お金のない人の命はここで尽きるのです。小さい子供は手作りの荷車に乗せられて親と一緒にゴミ捨て場でビニールの回収です。これをお金に換えて生活するのですからたかが知れています。それでも幸せなことに一日中親と一緒で、日本のように夫婦共働きでカギッ子になることなどありません。

 こういう話を聞いてくれた5年生の男の子は家に帰ってお父さんにゲームのソフトを買うために貯金をしていた3,000円全部をスラムの人にカンパするんだと言ってきたそうです。お父さんは全部カンパしなくてもゲームを買うために1,000円ぐらいにしたらと言うと、「僕はまた貯めればいいからこの貯金全部カンパして」と言ったそうです。お父さんからこの話を聞いて本当に嬉しかったです。クリスマスプレゼントをみなさんより早くもらった気持ちになりました。中佐(なかさ)()学校でこの講演をさせてもらえなかったら、こういう生徒に巡り合うことはありませんでした。本当に感謝です。

 

 20231215日 医学博士・歯科医師  林 春二