2026.01.16 林会長のお便り

祐介先生、牟田さん、リスナーの皆さんこんばんは。

 

 正月を迎えたと思ったら、あっという間にもう3回目の番組になってしまいました。光陰矢の如しとは全くその通りです。特に私のように80を過ぎた人間にとっては光陰矢の如し、どころか「ジェット機の如し」です。

1週間前の9日ですが、軽井沢の在宅の高齢者の訪問診療をしてきました。私の大学時代の恩師、宮沢先生も一緒でした。その高齢者は93歳でとてもお元気です。診療室に通っている頃はもっと足腰が弱く、歯の状態ももっと大変でした。上下ともに数本の自分の歯はあるのですが、特に下の前歯が2本ほど欠けていて残っている歯も根の病気が大きくて保存は不可能と思われていました。しかし体力もなくなり、とても診療室で待っていることもできなくなってしまいました。その頃当院の担当医は病院でこれらの下の歯全て抜いてもらって、入れ歯を作り直す計画でいたようです。

 以前、当院で訪問診療をしていた障害者施設で入所者が多数歯の虫歯を治療をしていた時のことです。「噛めるようになったら牛丼が食べたい」ということで頑張って訪問診療をさせてくれていました。ある時発熱で近くの病院に入院してしまいました。その病院内の歯科で、下顎(したあご)の歯をすべて抜かれてしまいました。退院した時のこの患者さんの元気の良さは、歯を治療していた時とは違って全く生気がなくなっていました。この時「歯が治ったら牛丼を食べる」と言う楽しみが全く叶えられないものだと覚悟が決まったのだと思います。退院して1週間位でまた発熱して入院しました。その時も1週間で退院出来ましたが、その更に1週間後に亡くなってしまいました。「歯が治ったら牛丼を食べるんだ」と希望に満ちていたことがこの人にとって元気の源だったのだと思います。治療を楽しみにしてくれていただけに発熱で入院した時、私のところに連絡してもらえたらこんなことにはならなかったと思います。こういう苦い経験がありましたから、高齢者の口であっても、障害者の口であっても、私は自分の歯で食べてもらうことを基本に考えています。

この高齢者の場合も当院の訪問診療を専門にやってくれている先生の診断だけでなく、私も見せてもらうことにしました。やはり私はこの高齢者の歯は1本も抜かないほうがいい、もし抜かなければいけない時はその歯を処置すれば良いと診断しました。それからこの高齢者の訪問診療は私が行いました。すでに1年位が経ちますが、抜かなければいけないはずの歯はすべて残っていてしっかり噛めています。私が訪問診療を始めた頃よりはずっと元気になってくれ、私の訪問診療を心待ちにしてくれているようになってくれました。それどころか私の恩師と一緒に訪問診療をしたときにはお茶を入れてくれてお茶菓子を出してくれて、世間話をして楽しんでくれていました。

2026116

医学博士・歯科医師 林春二